公益財団法人 東北活性化研究センター

人口の社会減と女性の定着に関する情報発信 学生合同ワークショップ

人口の社会減と女性の定着が大きな課題となっている東北圏。その解決の糸口を、これから社会人となり地域から首都圏に流出するかもしれない、あるいは首都圏から地域に流入する可能性のある本人たちに見いだしてもらおう。そんな試みとして「宮城×首都圏の学生による女性定着に関する学生合同ワークショップ」が2021年9月10日17時〜20時、オンラインで開かれた。若い世代に選ばれる魅力ある地域の実現に向け、大学生の意識と本音に迫る。

※記事中では、東北6県と新潟を合わせて「東北圏」または「東北」としています。

いつ、どこへ人々は去っていったのか?

いつ、どこへ人々は去っていったのか?

ワークショップに参加した学生は10人。それぞれ自己紹介とともに、卒業後に希望する就職先や地域、仕事内容や理想とする働き方について話していただいた。大学生から大学院生まで学年問わず、実家住まいや1人暮らし、内定が決まっている人もいれば就職についてまだ漠然としている人、結婚観・子育て観や将来設計もさまざまに語られた。

アイスブレイクを終え本番へ。まずは、ニッセイ基礎研究所人口動態シニアリサーチャー天野馨南子氏による「東北6県、新潟県人口動態データで読み解く。いつ、どこへ人々は去っていったのか?」と題した講義を行った。東北圏のリアルな現状について、天野氏がデータを基に解説した。

まず示したのはコロナ禍前10年間の都道府県別転出・転入超過のデータ。47都道府県中38のエリアで転出が転入を超過し、うち35エリアで女性が男性より大きく減少している。広域エリアで見ると、転居により人口が最も減っているのは東北地方。全国で転出する人口の実に4分の1を占めている。

ライフデザインのどの段階で減少するのか。直近5年間に転出した人口のうち、約6割が20代前半。地方では大学進学時に人口が減ると考えられがちだが、10代後半の転出は全体の18%に過ぎず、大学卒業時の就職で移動している割合が圧倒的であることが分かる。 天野氏は「地方創生、過疎・過密問題は労働市場の問題であり、就職、特に新卒就職の問題。かつ男女格差が大きい問題。20代前半の大学卒業後の就職期に、東北圏は男性よりも女性を失っていることを理解してもらえれば」と訴えた。

若い世代が望む働き方

東北圏から大卒就職段階で大きく減少する女性人口の流れを変えるためにはどうしたらいいのか。天野氏が示した現状を踏まえ、参加者は2つのグループに分かれてグループワークを行った。1つ目のテーマは「自分が望む働き方について」。多様な考え方を持つ学生たちの声を聞いてみた。

 

「女性が男性と同じように働けるなど、偏りがない職場で働きたい。子どもができたときにはテレワークができるなど、その時々の生活に合わせて対応できる柔軟な職場がいい」

「会社の規模よりも環境を重視したい。結婚後も正規で働きたいので、子育て期間にフレックス制度を利用するなど、柔軟な働き方ができる会社であればワークライフバランスの実現にもつながる」

「大学進学で宮城から東京に出たが、興味のある分野が出版関係で、地元には選択肢がない。若い世代でも意見が言えたり、責任のある仕事を任せてもらえたりする職場で働きたい」

「内定を頂いた会社が若手やベテラン、男女関係なく平等に白熱した議論をする人が多い。そういった環境だと成長できると思う。リモートワークや副業、時短労働も推奨していて、選択できるのはいい」

「成長できる、好きなことを突き詰めてやれる、いろいろなものを吸収できる、若手も活躍できる、子育てに関する制度がある。そのような条件を求めると県内では探しにくいので、東北や関東も視野に置くべきだと考えている」

「さまざまな価値観や考えを持った人とたくさん出会って自分の考えを広げたいので、最初は首都圏でキャリアを積みたい。一方で、自分が地方で育ってきたので都会で子育てをするのは怖い。子育てのタイミングで地元や地方に転職することも視野に入れたい」

「出る杭を打たずに伸ばしてくれるようなところで働き、経験や実績を積みたい。妊娠、出産を経てもキャリアを積める組織で、柔軟な考えを持った人がいるところがいい」

「東京の魅力ある仕事を地元でできる形があればそういう働き方をしたいが、若いうちは首都圏に出て多くのことを学びたい。いろいろな地域を見て経験を積んで、それでも地元が好きだとPRできる人になりたい」

 

働き方の柔軟性、若手にも機会があること、成長できる環境、子育ての際のサポートなど、学生が企業選びにおいて大事にしていることが浮かび上がった。

東北圏の企業や地域に求めること(Aグループ)

東北圏の企業や地域に求めること(Aグループ)

続いてのテーマは「東北圏が若い世代にとって魅力的な地域になるには」。ここからはグループ別に見ていく。

Aグループの議論ではまず、

 

「生きることと仕事が結び付いているのが地域の可能性で、都市にはないもの。しかし、首都圏から見て東北にしかないものは見えづらく、どうやって探せばいいのか分からない」

「東北の中と外では距離を感じる。例えば東北では震災復興に関していろいろな取り組みがなされているが、他地域から見ると何をやっているのかが伝わっていないのではないか」

 

という指摘があった。情報発信は内向きの傾向がある印象を持っているようで、東北の企業は枠を超えて広く伝わる発信の仕方が求められそうだ。

さらに、

 

「東北の企業は都市を真似ているイメージがあるが、結局東京よりは劣ってしまう。東北に元々あるものを利用して、東北だからこそできる新たな独自性を発信していった方がいい」

「東北と都会を比較した際に物価と給与の違いが大きく、圧倒的に劣っているのは交通の便と産業。一方で古民家や自然などが東北にはあり、それが魅力として刺さる人たちに届いていないのでは」

「地方の中小企業の情報にアクセスしにくい。就活サイトを使うと大手企業の情報しか得られず、見落とされて、地元には希望に合う仕事がないと思われてしまう」

 

と情報発信の重要性への言及が続く。

それでは、東北のどんなところを発信していけばよいのか。

 

「東北は地価や家賃など、開業にかかる資金が首都圏より安い。新しいことをやりたいときの資金の壁が首都圏に比べ超えやすいので、店を始めたい、起業したいという若い人にとっては良いのでは」

「東北には可能性がないと思われがちだが、むしろ、何もないから可能性があることを発信することが、東北の魅力を上げる、魅力を感じる人を増やすことにつながるのではないか」。

 

方向性が見えてきた。

 

「やりたいことを探したときに東京の方が種類は多く、『取りあえず東京に行こう』と思う人もいる。それを、『取りあえず東北に来てみよう』と思えるように、新しいことができる可能性と地価が安いなどの条件を魅力として訴えてはどうか」

「何かしようとするときのハードルが低く、資材や資源を活用しながら、自分が作り手になれることがあふれているのが東北の魅力」。

 

東北だからこそ新しいことができる、そんな打ち出し方で若い世代にアピールできそうだ。しかし、いくつかの留意点も挙がった。

 

「私は3年時の12月に内定を頂いたが、その頃は東北の企業や中小企業は説明会もやっていない状態だった。どうせ東北だからと後手に回らないでほしい」

「新しいことができるのは魅力だが、新しいことをするのが難しい人もたくさんいる。逆に、何もしなくても、生きていく上で地域とのつながりがあることも働くことに結び付く」。

 

多様な学生が集まったグループワークならではの異なる視点で意見が交わされた。

東北圏の企業や地域に求めること(Bグループ)

東北圏の企業や地域に求めること(Bグループ)

Bグループは、東北圏で働くとしたら企業や地域に求めたいことは何かをまず出し合っていった。

 

「若い時期から学んだり成長したり、自分のやりたいことができる環境が大事」

「海外と関わる仕事をと考えたとき、首都圏に目がいきがちだが、東北の企業も力を入れているのであればアピールしてほしい」

「東北で一人旅をして、海の幸がすごくおいしいことや、温かい人がたくさんいることなど、行って分かったことが多かった。実際に企業に行って、周りの環境や地域を知ることができる体験型のツアーがあれば働き方のイメージがつくのでは」

「地方にある会社はどこも同じような印象なので、なぜ東北にあるのかが見えると、その土地に行く意味が見いだせる」

「移住する前から人と交流してつながれるコミュニティーの場があればいい」

 

コミュニティーの話題がきっかけで、地域性に対する不安も聞かれた。

 

「東北地方は昔の形式を大事にしている家系が多い印象がある。毎年お盆の時期は必ず帰らなければいけないなど、しきたりを考えると東北には戻りにくい」

「コミュニティーがあるのは良いが、すぐに悪いうわさが広まったり、付き合いが悪いと居づらくなったりするので、首都圏に行きたくなる」

「東北出身の人からつながりが強いと聞くが、外部や縁がない人を受け入れる姿勢があるのか心配」。

 

これは地域ならではの問題かもしれない。

そうした問題を解消するためにも、

 

「どんな人が働いているのか、どのようなことを目指して働いているのかなどが分かると安心」

 

という意見もあった。

 

「就活の際にホームページの企業紹介で社員が『その企業のどういうところが良いと思って入社したか』『実際にはどのような働き方をしているのか』『どのようなことを目指しているのか』などを見て、自分が働く上で同じような志や考え方であれば一緒に頑張れるのではないか」。

 

Bグループでも情報発信の重要性にたどり着いた。

東北圏が若い世代にとって魅力的な地域になるには

1時間30分にわたるグループワークが終了。それぞれのグループで出た意見を基に「東北圏が若い世代にとって魅力ある地域になるには」の提言をまとめた。

Aグループは「若者にも刺さるようなPRの展開を」。東北の魅力をまとめ、伝えることが大事だという提言である。地方の企業にもさまざまな魅力があるにもかかわらず、そこにいる人たちがそもそも理解していない、魅力になる個性を短所だと思い込んで発信できていないのではないかと考えた。地元の人たちが魅力を理解し、若い世代が触れるメディアやSNSに情報を載せ、つながりを持てる機会をつくることを求める。

そこで打ち出すアピールポイントの一つが、「何もないから、作れる」。首都圏とは違って地価や物価が安く、発展途上だからこそ余っているテナントやスペースが活用でき、起業など新しくチャレンジしたり、好きなことを仕事にしたりするハードルが低いと言える。若い世代が自由に新しいことができる環境がある、そんな可能性があることを示せるのではないか。

もう一つは「多様な選択ができる、自由さ」。一方で、特にやりたいことが見つからない人でも自由に暮らせる居場所もあることもアピールする。例えば農家の手伝いをした際にお裾分けを頂くことがあるなど、地域性が強いからこそ人とのつながりが副産物を生むことがあり、生きることと働くことが重なり合う環境の自由さも伝えていくことも必要だとした。

Bグループの提言は「就職と子育てのタイミングに合わせた支援を」。学生たちが企業に求めているものは、その企業の「特別感」。地方の企業はどこも同じようなイメージを持たれている中、東北のその企業でしかやってないことや、その土地ではないとできないことなどの特別感があれば、首都圏に住んでいる若い世代も選ぶ可能性が高まると考えた。働き方支援、地域支援、子育て支援がその特別感になり得る。

子育てのタイミングで郊外や地方に戻り子どもを育てたいという意見が多い一方、地方は地域のつながりがとても強く、内向きのコミュニティーという印象がある。それらを解決するためにも、地縁のない人にもオープンであってほしいと要望する。新しく入る人のための場所を用意し、増やし、それらを知らせていくことが若い人を取り込むきっかけになると提案した。 より良い働き方を実現するためには子育て支援も大切。社内に保育所を設けたり、子どもの行事で取得できる休暇を設けたりしている企業が東北圏にもある。そうした支援をアピールすることで、子育て世代が東北に移り住んで働きやすくなるのではないかという意見が出た。

ワークショップを終えて

ワークショップを終えて

それぞれの発表を聞き、天野氏は「Aグループの提言からは、若い世代が何かやりたいと言ったときに、やったらいいよと駆け寄り、寄り添ってくれる大人がいて、それを伝えられる環境と伝える努力が必要だと感じた。Bグループも共通する部分があり、外から入ってくる若い人たちのコミュニティーの宣伝、価値観・家族観の多様性のアピール、子育て支援のPRが非常に大事だと分かった」と総評した。 若い世代の就職や働き方、ライフスタイルについての考え方が明らかとなり、親世代でもある経営者層の思い込みと実情の違いも浮き彫りになった今回の学生合同ワークショップ。東北圏が若い世代にとって魅力的な地域になるために、東北圏で暮らしている、働いている大人が起こすべきアクションが見えたのではないか。

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